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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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私の大学時代の恩師は、理論・計量的側面から研究に取り組む学者であったが、文化的な素養も豊かで、ご自宅には藤田嗣治や長谷川潔の絵が飾られているなど美術好きでもあった。ある時、私がイタリア旅行に出かけるという話をした所、「絵を買ってきてほしい。もしなければ画集でもよい」とのご依頼を受けた。私の懐具合からすれば、絵の購入は到底無理だが、画集ならば何とかなるかなと思った。「ハイ分かりました」と返事をして、空の人となった。2010年の夏のことであった。

ミラノの空港に到着し、汽車を利用してイタリア北部の諸都市を見て歩いた。都市がどのような自然条件の下に、どのように形成されていったか、というのは私の関心テーマである。各都市では大き目の本屋に飛び込み、メモしたお目当ての画家の名前をもとに、画集もしくは関連書がないかを尋ねてみた。その画家は、17世紀の画家でメジャーでなかったからか、どこも手掛かりがつかめず、とうとう旅の最終目的地のローマに到着した。大きな本屋で、親切な店員さんが時間をかけてネット検索をしてくれたが、それでも適当な本は探せなかった。この近くに古本屋があるからそこで見つかるかもしれないと教えてくれたが、行ってみると新刊書のバーゲン本の書店に変わっていた。

ローマ滞在も終盤に差し掛かり、画集の入手はほぼ諦めていた。そんな折、サンタンジェロ城を見た後で、聖アゴスティーノ教会に立ち寄り、礼拝堂にあるカラヴァッジョの絵「ロレートの聖母」を堪能した。教会を出ると教会のすぐ前に古書店があったので、試しに覗き込む。中学生位の息子さんが店番をしていた。この子にメモを見せて、件の画家の画集などの本が無いかどうか聞いてみた。早速ネット検索した所、「ある」との返事。やっと手ごたえありだ。本を棚から出してくれた。画集と言うよりは、厚めの解説書といった体裁であったが、中には結構数多くの絵が掲載されていた。値段は120ユーロだが、現金なら10ユーロ値引きするとのこと。そこで現金の支払いで、110ユーロ(一万円強)で手に入れた。かなりの時間をかけて探し、やっと見つかったので、「やった!」という感じである。目的が達成でき、うれしいことこの上もなかった。

探していた画家の名前はモンス・デジデリオといい、二人の画家(ノメとバラ)の合成名だった。17世紀初期に活躍したバロック期の画家で、廃墟の絵で有名だった。旅行から帰ったその日に、恩師に電話を差し上げた。絵は無かったが解説書を入手したので、明日早速お届けするむねを伝えた。いつも前向きで建設的な考えを示すことを得意としていた恩師が、なぜ廃墟の絵を好んだのかは不明である。ご自身のすぐれない体調のことやご自分の年齢が高くなってきたことと関係があったのかもしれない。「先生へのプレゼントです」と言った所、「もらっちゃっていいのかい」とうれしそう。本を手にして頁をめくる姿は、いかにも本好きな恩師らしく興味津々の顔だった。「イタリア語だから、誰かに訳してもらわないといけないな」などと言いながら、これから廃墟を研究するのだと好奇心旺盛な恩師だった。

いつも好奇心一杯で、熱心にご指導いただいた恩師であったが、その3年後に逝去された。享年77。亡くなられたのが3月22日で、数日後の告別式当日は桜が満開だった。だから桜の満開は、私にとってうれしくもあり哀しくもある。今年の3月で七回忌を迎える。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
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