眉は顔のアクセサリー的要素が強いけれど目に汗が入らないように神様?が作った防波堤のようなものだ。
解剖学的には、眉は目や鼻、耳、口とおなじ感覚器の仲間になる。眉の形は眉そのものの形で変わるものの基本は骨格で、前頭骨の下の眉弓のあたりで決まるが眉弓の出っ張りが大きいほど原始型といわれている。
西洋人は眉弓が突出しているうえ、上まぶたに脂肪が少ないので稜が目立つが日本人は突出度が少なく、上まぶたに脂肪が多いから眉はほとんど平面に作られる。
男性の眉はある程度稜線がはっきりするほうが良いが、女性の場合は稜線がはっきりすると
老けて見えることが多い。
中世以降のマリア像や美人の肖像画には、普通の西洋人とは違う眉弓があるようだ。
中国の2000年の知恵と伝統から生まれたという『算命学』では眉は、色が濃くて艶があるのが最高で頭髪の色よりやや明るいのがよいというが、なぜか顔が四角の場合は頭髪より少し濃いほうがよいという。理想的な眉は目と眉の中央に人差し指が1本横になるものといっている。この『算命学』では眉の形を18に分類しているが、例をあげると、眉が目についていてすぐ上に骨格が突き出ている人は能力以上の野心を持ち目標が高すぎるので短気でひとをいらいらさせることが多い・・・という調子である。
男の眉といえば『三国志演義』の関羽はたくましい眉の持ち主で「臥蚕の眉」、つまりは蚕のように太かったという。美人の眉を「蛾眉」というがカイコ対ガというコントラストは面白い。眉毛が長い男性がいるが毛には成長期・退行期・休止期とよぶサイクル(毛周期)があって一日0.18ミリ伸びて1センチ程度になると新陳代謝で抜け落ちるが、成長と代謝を促す甲状腺ホルモンのバランスが崩れると異常に長い眉毛になるというから、長すぎる眉毛は老化現象なのかもしれない。
いま若い男性の眉への関心が異常に高い。トリミング用の小さいコームやハサミを持っているかと聞くと「はい」という声が予想以上に多いのだが「眉毛秀麗」に遠い人がいる。この言葉にあてはまらなくてもいいのだがもう少し考えてと言いたくなる。
「メンズ・アイブロウ」ではなく「メール・アイブロウ」と言って男の眉に注目させてきたのはアメリカだけど今に始まるのはなく7、8年も前からである。
ジーン・ケリーのような優しい眉に対してモンゴメリ・クリフトのようなたくましい眉。リチャード・ギアのようなスポーティな眉に対してボブ・ホフキンスのようなエレガントな眉。というのは一つの例だが眉がもつイメージがある。
メイクアップアーティストのビンセント・キーホーやウェイ・バンディなどは昔から「眉は目の額縁」と言っているが、額縁ならば良い形のものを選びたい。
カジュアルな眉ってどういう形だろう。理容の有能な専門家に相談するのがダンディへの近道かもしれない。
「男の眉」を女性はどう見ているのだろう。
「男眉」という短編が向田邦子さんの『思い出トランプ』の中にある。「男眉」を句集のタイトルにされた方があれば「春寒し 嫌いなものは 男眉」という句を詠まれたのは井上たま子さんだったが、「男眉」というのが男の眉ではなく「女が男のように装った作り眉」というのが『広辞苑』での説明である。
顔の中で動かすことができる唯一の場所が眉だから、化粧をしても変わり映えしなければ眉が失敗といえるくらい女性にとって眉は大切な部分になる。
玄宗は、鴛鴦眉・子山眉・五嶽眉・三峯眉・垂珠眉・月稜眉・分梢眉・涵烟眉・払雲眉・倒暈眉という十眉図を作らせているが、長安の都の花街にいた瑩姐(けいしゃ)は、眉を毎日変え数十日たっても尽きなかったので街の人たちは「玄宗は十眉図をつくったが、あなたは百眉をつくって驚かせたら・・・」と言ったと伝えられている。
東洋の眉の歴史にはいろいろあって日本には『化粧眉作口伝』『粧眉作傅事』などなど眉つくりの本があるが、この手のものは西欧にはないようだ。19世紀の末にロンドンで出版されたヘンリー・フィンクの『ロマンチックな恋愛と体の美』に少しだが眉の美学が顔を出してくるが、素晴らしい眉も単独では存在しない。見事な眉は目の美しさをマイナスにするのだから気をつけたい。
上村松園は随筆『青眉抄』に「眉ほど目や口以上にもっと内面情感を如実に表現するものはない」と書いているが、その松園の傑作といわれる「青眉」では、先笄髷の若い女性の剃り落としたばかりのきれいな青い眉が鑑られる。
女偏に眉を書くと「媚」になり、セクシャルな感じもあっていい。媚薬という言葉もあるが「風光明媚」のようにすぐれて美しいという使い方もされるのだから、眉の力は大きい。眉をウインクさせて挨拶にする国もあるのだ。
古代エジプトにもギリシアにも付けまつげならぬ「つけ眉」があったというが18世紀でも使われていて、つけ眉を猫に盗られて大騒ぎをした貴婦人のことを当時のイギリス国王に仕えたマチュー・ブライヤーという詩人が書いているがつけ眉の材料というのがハツカネズミの毛皮なのだから猫に見つかれば大変なことにならない方が不思議である。