眠り

~ミスターナレッジの軽美学~

 「春眠暁を覚えず」という言葉は、春の夜には、快適な眠りを貪れるので、ついつい夜が明けるのも知らずに眠り続けるという意味で、盛唐の詩人(689~740)孟浩然(もうこうぜん)が出典という。

 ひとが地球上に現れたころは、他の動物のように寝ている時と起きている時のサイクルが、多分一致していたのに、ひとが火を作るようになって、僅かでも明かりを得られるようになるにつれ、昼と夜のバランスが少しずつ変わっていった。

 なぜ眠るのか、にはいろいろの説がある。「疲労説」は疲れたから眠るというのだが毎日同じころに眠くなるのはおかしい。
 体のどこか、おそらく脳に、眠りを作る物質があるというのが「睡眠物質説」。牛乳などに含まれるトリプトファンも眠りを誘う物質の一つだから、睡眠薬を常用する人の多いアメリカには「睡眠薬を止めて牛乳を…」という運動がある。夜中に頻繁に目が覚める人の90%は牛乳嫌いという報告もある。
 体の中に時計があって、毎日同じ時刻に眠くなり、起きる時刻に目が覚めるというのは「体内時計説」だが、どれも仮説のようだ。
 ナポレオンは3時間しか寝なかったというが、睡眠時間の標準のような8時間は、ローマ時代に言われたことで、一日24時間を午前と午後、夜で等分したという単純なものだから生物学的根拠には乏しいという。 8時間にはこだわらないで、起きる時間が毎朝同じというのが健康な眠り方になる。疲れたから朝もう一時間長くではなく、一時間早く寝て同じ時刻に起きるほうが健康にはよい。

 眠っている間、意識喪失の状態が同じように続くのではなく「うとうと」「すやすや」「ぐっすり」を何回か繰り返した後、眠りから覚める。眠っているようでも閉じた目の下で眼球が動くレム睡眠という現象があり、その他の睡眠をノン・レム睡眠というが、一晩の睡眠の中でレム睡眠というのは成人で20%前後という。この睡眠が「体の休息」で、ノン・レム睡眠は、「脳の休息」といわれているが、このセットを一晩に何回か繰り返すのである。

 質のよい眠りのために枕の力は大きく、枕が変わると眠れないと、出張には愛用の枕ご持参という人がいる。枕が少し斜めでないとぐっすり眠れないという人もいるが、これらは睡眠儀式というもので、少しも「変」ではない。マネージャーに大きな縫いぐるみのはいったボストンを持たせてロケにゆく有名な女優さんがあった。
 枕の高さは脳波をもとに、いろいろ研究されているが、簡単にいえば使用時6~8センチのものがよいという。枕のコンサルタントがいて適当な枕をサービスするホテルもある。一晩に2,30回も寝返りをするのだから、枕のサイズも重要である。ところでご自身の睡眠中のポーズをご存じだろうか。「眠っていてわからない」という場合でも強いて尋ねた時の答えは90%近く正解らしい。
「王者は仰向けに寝、賢者は横向きに寝、金持ちはうつぶせに寝る」というのは西洋に昔からあることわざだが、スリープ・ポジションを研究しているアメリカの精神科医サミュエル・ダンケル博士は、寝方を分析して昼間の世界と結び付けている。
 上を向いて寝るのは「王者のポジション」で「子供のころの両親の関心を一身に受けて育った人」に多く、暮らしに自信があり多くのものを受け入れる強さを持っているという。
 丸まった形で内臓の部分を隠して横たわるのは「胎児のポジション」で「これまでの人生での出来事に対して自分自身をひろげるとかあからさまになることを許していない人」だという。たくさんのポジションがあり、それから派生する手足の位置、ベッドのどの部分で寝るかなども検討したうえで、診断結果が出るようになっていて、いまアメリカの精神分析医はスリープ・ポジションを必ず聞くようになったという。

 最後に女性の方に、なるべく目覚し時計にサヨナラをして戴きたいと一言。使わない方が副腎皮質ホルモンとの関係で綺麗になれる。