入浴

~ミスターナレッジの軽美学~

 前回の「眠り」に続いて「入浴」としたのは、日本人に多い慢性の疲労から抜け出すには、どうしてもこの二つが必要だからである。

 入浴の起源というのは必ずしも風呂と結びつかない。メソポタミア・シュメール文明が西暦紀元前3000年以上前に栄えたウルクでは神殿の周りから沐浴室が発見されている。
古代エジプト人やユダヤ人は聖浄のために体を水で洗うことを心がけていたように「旧約聖書」にある。釈迦が生まれた紀元前6世紀ごろのインドにも沐浴の習慣があって、マハーマーヤは香しい水で沐浴してからブッダを身ごもったと伝えられている。
 入浴の歴史上有名なのがご存知のローマ風呂で、カラカラの大浴場の敷地は12万4400平方メートル。2300人が同時に入浴できたと歴史家は書いているが、あるときローマの壮麗な噴水の前を通った皇帝ネロは「健康は水から」と叫んだという。その時の「Sanitas per aquas !」が「SPA」の語源になったという説がある。
ローマの入浴の楽しみ方はイスラム圏に伝わってハマーム(公共浴場)として生活の中に根を下ろすことになった。

 西洋人は大体風呂嫌いのようだが、14世紀末にヘンリーⅣ世は「少なくとも一生に一度は風呂に入らなければいけない」という「入浴令」を出しているが、イギリスは地質的にも地形的に水汲みが大変面倒なところだという人もいる。そのイギリスに入浴の習慣を伝えたのはレノア王妃のようだ。

「風呂に入る」も「湯に入る」も同じだがもともとは風呂と湯は別だった。風呂は湯につからない蒸気浴の蒸し風呂で湯は熱水や温水につかるものだった。
沐浴の沐は髪を洗うことを指し、湯水を使って髪や汚れを洗い清めるのが沐浴なのである。

 はじめに入浴がなければ疲労の回復はないと述べたが、入浴の効果として(1)温熱作用(2)水圧作用(3)浮力作用がある。
温かい湯に入ることで血液循環がよくなりリラックスできる。日本人は38~43℃だが欧米人は33~36℃を好むのは生活様式の違いが大きいようだ。水圧で胴回りは3~5センチ、胸周りでも1~2センチは細くなる。呼吸数が増え、むくんだ脚にたまっていた血液やリンパの循環が良くなる。浮力では、体重は空気の9分の1になるから、動きやすくなるので、リハビリにも効果的である。
疲労というのは筋肉に乳酸がたまるのであるがこの乳酸を早く追い出すのに効果的なのが炭酸ガス入りの浴剤なのを覚えておかれるといい。

効果の多い入浴であるが、しない方がよいのは、食事の30分前と食後60分。激しい運動の後と飲酒後。アルコールが入ると心拍が高まり、血圧が低下する。宴会でタップリのんでから温泉に入るとか、熱い温泉に入りながら冷酒一杯というのはとんでもない話。
 その温泉だが、日本人は温泉好きで、いまは若い女性にも温泉好きが多いようだ。温泉には法的な決まりがあり、温度は25℃が基準であるが、その温度に達していなくても決められた物質を、一定量以上含んでいればいいのだから、ぬるい温泉もある。ヨーロッパでは20℃アメリカでは70°F(21.1℃)になっている。
摂氏と華氏では、明治5年に東京府が銭湯に入浴の適温など書いたものを掲示させている。「8,90度がよい」というのだが湯の温度(華氏)を入浴回数と誤解して、1日に何度も入浴するものがあれば、年間の入浴回数と信じて毎日の入浴を避けた人がいたということである。