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9月に実施予定の自民党総裁選挙に、何人かの政治家が候補者として名乗りを上げつつある。新聞には候補者の人物紹介の記事が追いかけるように掲載される。記事中には、ご本人の経歴などに加えて、愛読書の項目がある。政治家がどのような思想・信条を持っているかという情報は重要で、愛読書でその一端がうかがえる。
例えば、菅義偉首相は、『君主論』(マキァベリ)、『豊臣秀吉 ある補佐役の生涯』(堺屋太一)、『リーダーを目指す人の心得』(コリン・パウエル)を愛読書に挙げている。また、岸田文雄前政調会長は、『罪と罰』(ドストエフスキー)、『宮本武蔵』(吉川英治)、『蹇蹇録』(陸奥宗光)などを挙げている。なお蹇蹇録(けんけんろく)は聞きなれない言葉であるが、蹇蹇は、君主に忠誠を尽くすという意味。明治時代の外務大臣陸奥宗光がしたためた外交記録で、現在は文庫で読むことが出来る。それぞれ政治家らしい選択である。
一方で、愛読書については別の話題もある。滋賀県教育委員会が今年3月に卒業した県内高校生2,198人を対象にして、就職試験のことを調査した所、企業823社のうち33社においての面接試験で、就職差別につながる不適切な質問があったとする報道を目にした。面接試験で愛読書を尋ねるのは、個人の思想・信条にかかわることなので、不適切な質問だとのことである。厚生労働省も、その旨の方針を打ち出しているので、政治家にとっての愛読書の扱いとは異なっている。なかなか難しい時代になったものだと思う。
私は、『奥の細道』(松尾芭蕉)などは何度も読んでいるが、愛読書という感じではなく、読みたくなると読む類の本である。私の場合、職業柄か多種多様な書籍に接するが、本は必要に応じて読むものなので、とくに愛読書という意識はない。研究者の場合は、書物よりも専門の学術雑誌の論文を熟読することに時間を消費することが多い。自分が設定した研究テーマに必要となる主要な論文を列挙し、片っ端から読む。といっても、研究の進み具合があるから、自ずと自分のペースで読み進めてゆく。
すると、自分自身の研究テーマに照らして、何が論点で、どのような研究者がいて、どの論文が必読の論文なのかの見当がついてくる。論文を執筆する頃になると、ほぼ余すところなく主要論文を読了済みなので、この研究テーマについては自分が一番読んでいるに違いないと思えてくるし、自信もついてくる。習得したことをまとめたものは、展望論文と呼ばれている。当該テーマについての研究状況全体を展望しているからである。その上で、研究者自身の位置づけを明確にしていくのが一般的である。
研究書ともなると、その分野の専門家が長年かけて書籍にまとめたものなので、後学の人たちが、あるテーマを体系的に理解したい時に便利である。学説史もわかるし、参考文献も有用であり、何よりも著者を通じて知的体系を学ぶことができる。著者が費やした多大な労力からすれば、そんな書物が数千円で買えるのだから安いものである。
研究書以外の一般書は、研究者にとって、基礎的な教養や議論の土台ともなるので欠かせない。例えば、私は門外漢であるが、文学書は人々の心の機微に触れることが出来るし、歴史書は時代のダイナミズムと人々の決断とその結果などを知る機会になる。最近のことで言えば、近々聖徳太子と法隆寺をテーマにした展覧会に出かけるので、その予習として美術史家上原和さんの『斑鳩の白い道のうえに』の本を現在再読中である。本はいつ必要になるかわからないので、なかなか手放すことが出来ない。こんな言い訳をしていると、いつまでたっても本が片付かないので困ったものである。
愛読書とは言えないが、私の手の届くところにある本としては、各種辞典、歳時記、地図帳、年表、国勢図会などがある。これらの情報は、今やスマートフォン一つで用が足せる時代となった。愛読書ならぬ「愛フォン」か。書物は書物なりの良さもある。装丁、紙質、活字、手触り等々を感じながら、ぺらぺらと頁をめくる時間と頭の体操を楽しめる。とりわけ和綴じの書物は、時空を超えて何かを感じさせてくれる。
コロナ禍で在宅時間が長くなり、読書の時間も増えた。書物は何かを気づかせ、私たちが私たちを取り巻く世界のことを知り、より深く理解することができ、知的好奇心を満たしてくれるよき材料である。古今東西の先知先哲の知恵に触れることで、先人との対話を楽しめるのはうれしいことである。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
