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Men’s Life Style
金安 岩男

著者:金安 岩男
1947年2月に東京の下町に生まれる。
学部で経済学、大学院で地理学を学び、外資系情報企業、国立大学、私立大学での勤務経験を有し、研究、教育、研修などの各種プロジェクトを実施。地理学者として、計画実践、プロジェクト発想に取り組んでいる。海外諸都市の街歩き、相撲などを趣味に、発想のヒントをいつも探究中。社会的活動として、政府機関、地方自治体の各種審議会、委員会などの会長、委員などを務めている。
主な著書に、『時空間の構図』、『プロジェクト発想法』、その他多数。現在は、慶應義塾大学名誉教授、新宿自治創造研究所所長。

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2003年から04年にかけての一年間、ロンドン大学で研究生活を送る機会があった。都市が研究対象なので、ロンドン関連の論文を読み、町を見て歩き、何かを感じ取り、考えをまとめて文章にすることが主な活動だった。住んだ所は、ロンドンの中心部から地下鉄で20分程度の北部住宅地であり、近くにはハムステッド・ヒースと呼ばれる広い公園(面積は約8平方キロメートル)があった。そこには、ケンウッド・ハウスと呼ばれる瀟洒な建物がある。自宅から近かったので、気分転換によく出かけた。

18世紀にイギリスの判事をやり、初代マンスフィールド伯爵であったウィリアム・マレーが、元々あったこのハウスを改築し住んだ。古典主義で知られる著名な建築家のロバート・アダムが改築のための設計を担当した。1925年に、ビールで有名なギネス家の初代アイヴィー伯爵エドワード・セシル・ギネスが、自身が所蔵する絵画コレクションなどを収蔵するために、ハウスを購入した。ところが、購入後まもなく当主が亡くなり、遺言による寄付である遺贈により国の所有する所となった。現在では、ナショナル・ヘリテージ財団が美術館として運営している。国の所有なので入館は無料で、入口の箱に気持ちで寄付金を入れればよい。2012年から2013年後半にかけての大規模な修復作業が終了し、一般公開されている。

他のヨーロッパ諸国とは異なり、イギリスの絵画が日本にあまり知られていないのは残念なことである。ケンウッド・ハウス所蔵の有名な絵画作品としては、フェルメールのギターを弾く女、レンブラントの肖像画などがあるが、なによりもイギリスの画家の絵画を多数見られるのが良い。イギリス絵画の種類は、他のヨーロッパ諸国と同様に、宗教画、肖像画、風俗画、風景画などから構成される。したがって、絵画鑑賞は、その国や地域の宗教、人物、社会背景、景観などを深く知る機会になるのでお勧めである。

イギリスの絵画といえば、輸入画家の影響が強い。オランダからはヴァンダイク、ヴェネチアの写実的な風景画で有名なカナレットなど多数おり、これらの画家がある時期にイギリスに住み、創作活動に努め、イギリスの画家たちを刺激した。結果として、ホーガース、レイノルズ、ゲイズバラ、コンスタブル、ターナーなどのイギリスを代表する画家たちの登場となった。ウィリアム・ホーガースはイギリス絵画史の中で初期の先導役を果たした。彼は社会風刺など世俗的な題材を絵画に取り入れた。ジョシュア・レイノルズは初代のロイヤル・アカデミー会長を務め、イギリスの絵画世界の発展ならびに絵画教育を通じて若い画家たちを輩出した。レイノルズとほぼ同時期の画家に、肖像画で有名なゲインズバラがいる。

ウィリアム・ターナーは、おそらくイギリスで一番有名な画家であり、先年ターナーを主人公にした映画も上映された。ターナーは、ロンドンの中心部の劇場街として知られるコベントガーデンのメイドゥン・レーンで、理髪店兼鬘屋を営む両親から生まれたので「理髪師の息子」だった。アカデミーなどに通ったことはあるが、ほぼ独学であった。若い頃は地誌的な風景画で描く線もはっきりしていたが、後年には、ぼんやりした風景画が特徴的である。

有名な作品に、「トラファルガーの戦い」、「雨、蒸気、速度-グレート・ウェスタン鉄道-」などがあり、日本でもターナー展が開催されたことがあるので、鑑賞された人も数多くいることだろう。見ればターナーだとすぐ分かる画風で、日本人にもお馴染みで人気がある。ターナーは遺言により、作品などすべての所有物を国に遺贈した。それらは、テート美術館に所蔵展示されている。イギリスを代表する画家であるだけに、その展示規模も巨大である。

ターナーと並びイギリス風景画で有名なのがコンスタブルである。コンスタブルは、大きな自然公園と瀟洒な住宅のあるハムステッドに住み、この地の絵を数点残している。東京都内の美術館でコンスタブル展が昨年(2021年)開催されている。ターナーやコンスタブルなどの風景画は、後のフランス印象派に影響したと言われている。

美術を通じて、美術の波及、建築、公園、景観、資産家の寄付、社会風俗など、英国文化を知るきっかけになった。ロンドン滞在中に結構数多く英国絵画を目にする機会があったので、その一端をご紹介した。今日では、日本で海外の美術館の収蔵品が鑑賞できる展覧会があるので贅沢なことである。世間の評価に惑わされることなく、自分自身の興味で美術品を楽しむのも、それなりに楽しいことだと思う。



(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
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