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麻疹、コレラ、天然痘などの感染病は人類にとっての大問題の一つであり、日本もその例外ではない。歴史上、何度も疫病に襲われている。時代を幕末に限定しても複数回発生している。例えば、1858年(安政5)の夏、全国的にコレラが発生し、江戸での死者は約3万人。発生地はインドで、アメリカ船が長崎に入港して日本に伝染した。経口感染により三日で死ぬので、「三日コロリ」の俗称がある。第十三代将軍家定もこの際のコレラで亡くなったといわれている。
1862年(文久2)の夏にも、麻疹、コレラが発生した。江戸の死者は約3万人。「人別がきへて御寺の帳につき」という川柳が残っている。この川柳は、人々が亡くなると、現代の住民基本台帳に相当する「人別帳」から消えて、寺の「過去帳」に記載されることを示している。速報性を売り物にする各種の「かわら版」から読み取れることは、次の事柄である。
「大江戸町々寺院人別書上写」(安政5年(1858))
「・・・関東海道筋は勿論、江戸四里四方近郷近在死亡の者おびただしく、是によって有難くも、御上様より下々難渋の貧家へ御救米下しおかるる間、御府内死失の人別御調べ遊ばされ、猶また寺院より書上げ候死人、八月朔日より同三十日まで左の通り・・・(注、原文にはここに地域別の一覧表があるが省略)」
(現代の御救米は、個人への一律10万円の特別定額給付金、事業者への上限200万円や上限100万円の持続化給付金、その他さまざまな補助金制度があり大変ありがたいが、その手続きの煩雑さと遅滞が社会的な問題となっている。とくに個人のマイナンバーと銀行口座とがうまく連動していないことによる不具合により、オンラインよりも書類での申請を進める始末となっている。)
「戯文通神鳥(つかみどり)」
不安から、さまざまな噂が世に流布する。これが効く、あれが効くとなれば、食べ物、薬、まじない、神仏の御札、等々、人が殺到するのは今も昔も変わりない。かわら版の「通神鳥(つかみどり)」は、「摑み取り」の語呂合わせに由来するが、「どく(毒)けっこうけっこう(結構結構)と鳴く実にいまわしい鳥」としている。
「コロリ剣呑経(けんのんきょう)」
コロリ流行のピーク時には、棺桶も不足し、火葬も満足にできなかった。現在の東京都荒川区の南千住にあった小塚原の焼場には積み上げた死体が腐乱し、その臭気が浅草から神田辺りまで届き、人々は病気になりそうだったという。そんな折、坊主姿の門付け芸人が願人坊主(祈願などをする大道芸人のこと)として活動した。阿呆陀羅経の「難病除御祈祷和讃」の札として示されている。
「コロリの替え歌はるさめ」
はかなさに ころりと死ぬる人々の 墓場に担ふて埋める数 花を手向けのいぢらしさや(誰もが知る著名人が、今回のコロナウィルスに罹患したり、亡くなったりしている。多くの人々が、人間の命の「はかなさ」を感じることになった。)
「流行麻疹のなぞかけ」
はやる麻疹とかけて 貫目の決まらぬ俵
心は重いも有り軽いもあり
(病気の軽重と米俵の重量との関連付けから、この種のなぞかけが登場した。)
「麻疹ない物づくし」
さてもないない変わりない 今年も豊年苦労がない
はしかの流行あとがない お医者は此の節暇がない
芝居も当分始まらない 役者もはしかで是非がない
病にばかりは勝たれない 看病する人寝る間がない
・・・
現代とまったく変わらぬ、「ない物づくし」の状態となっている。備えあれば憂いなし。医学が進歩したとはいえ、感染症はこれからも発生が予想される大きな課題となっている。最近の経済新聞では、コロナ災難にまつわる短歌が紹介されていた。非接触行動は感性症対策に有効である。
「長嶋茂雄(ながしま)さんと握手したから洗わないなつかしきかな」 唐木よしこ、読売歌壇
医学、医療関係者の知見を参考にして、手洗いの励行、社会距離の確保(ソーシャル・ディスタンシング)、マスクの着用、免疫力の強化など、自分でできることは自分でやり、他の人々との協力体制をとることが大切である。古文書判読の入門書に、たまたま例文として幕末のコロリが取り上げられていたので、ここにご紹介した。感染症に関して私たちが学ぶべきことが沢山あり、とりわけ事実の解明と有事に対応する仕組み構築の大切さを痛感する毎日である。
(金安岩男 慶應義塾大学名誉教授)
